カルデア人の神託(Chaldaean Oracles)

カルデア人の神託(Chaldaean Oracles)

 これが伝統的に帰せられているのは、カルデア人ユリアノスという人(トラヤヌス帝の時代〔在位98-117〕に盛時を迎えたといわれる)か、その息子の降神術師ユリアノス(マルクス・アウレリウス帝の時代〔在位161-180〕の人で、『スーダ』によれば、マルクス帝の対ゲルマン戦争の際の雨の魔術に責任があった)である。成立時期は伝統的に紀元後2世紀とされるが、その根拠は、ヌゥメニウスの仕事(彼の著作時期は、後2世紀後半よりおそくない)に含まれる神託への言及が2箇所あるという、疑わしい推測によってのみである。その他では、後3世紀に、イアムブリコスがその『エジプト人たちの秘儀について』の中で引用するまで、このテキストへの言及はない。

 集成を通じ、また、後期新プラトン主義者たちによる引用の仕方から、テキストはさまざまな神々による神託の一連のテキストから成り、中でも重要なのが明らかにヘカテーであることが相当はっきりしている。しかしながら、冒頭に、老ユリアノスと、若ユリアノスによって呼び出されたプラトーンとの対話が含まれていたらしい。また、神託における教説の説明も規定していたらしい。その教説は、プラトン的、ピュタゴラス派的な思索、儀式、魔術を基としていたようである。

 カルデア人の書に含まれる神託や註釈は、世界〔宇宙〕の自然への手引きを提供しているのみならず、降神術の手引きとしての役割も果たしていたようにみえる。(OCD)


 新プラトン主義内部に引かれうるさまざまな分割線のうちで、すでに識者の意見の一致をえており、いまわれわれの関心を引くものは、プロティノスポルピュリオス等の思想と、プロクロス等を含むイアンプリコス以降の思想を分かつ線である。両陣営を分かつ一つの指標は、神働術(qeourgiva)を重視するか否かという点であり、ひいては神働術を提唱した『カルデア神託』(ORACULA CHARDAIA, LOvGIA CALDAI&KAS)を聖なる書物として認めるか否かという点にかかっている。これが、イアンプリコス以降の新プラトン主義研究の前提として、『カルデア神託』研究が先行しなければならない理由である。
 (堀江聡「『カルデア神託』と神働術」、『ネオプラトニカ:新プラトン主義の影響史』昭和堂、1998.3.、p.101)